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谷間の百合

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飛び立っていった「鳩」

随分長いこと、わが家に一羽の鳩がいました。
それが、いつごろからか、どれくらいいたのかが思い出せません。

ある日、犬の散歩から帰ってきたら、裏道いちめんが真っ白に雪が積もったようになっていて、何ごとかと駆け寄ってみるとカラスに襲われた子どものハトの羽でした。
ハトはワニに毛をむしられて丸裸にされた白うさぎ状態でした。
もうダメだと思いましたが、とりあえず家に持ち帰り手当をすることにしました。
わが家にとっては高価なもので薬用にしか使用していなかった酵母飲料をそのときは惜しみなく全身に浴びせるように懸けては、それを繰り返しました。
すると、何日もしないうちに産毛が生えてきたのです。

それから、ハトは、何年も何年も、わたしが作ったニワトリ小屋の隅の高いところで、フクロウのように住み続けました。

6年くらい経っていたでしょうか。
わたしは、犬が決してニワトリを襲うことがないことに安心していたので、小屋の戸が開いていてもさほど気にしていませんでした。ところがその日は、滅多にないことですがハトが地面に降りていたのでしょうか、そこを犬が襲ったらしいのです。
小屋に入ると、足元に肉の塊のようなものが落ちていました。その肉の塊がハトだと分かったときのわたしの気持ちは、天地がひっくり返ったようでした。悲鳴をあげながらそれを拾い上げると家に飛んで帰り、狂ったようにまた以前と同じ治療をしました。

ふたたび、奇跡が起きました。
なんと、見事な光沢のある美しい羽が生えそろったのです。

それから、また小屋の中でフクロウのように住み続けました。
ところが、ある日、急に外へ飛び出したのです。しばらく、サクラの枝に止まって思案している風でしたが、意を決したかのように、どこへともなく飛び去っていきました。

それから、どれくらい日が経ったのでしょうか。
あるとき、家の外でハトがさかんに急き立てるように鳴いているのに気がつきました。
出てみると、あのハトでした。
わたしは、毎朝、ラジオ体操のあと、犬の散歩に出かけるのですが、ちょうどそのころを見計らったかのように、家の前の電線にくるようになりました。

自分が元気でいることをわたしに知らせにくるのか、あるいは、わたしが元気でいることを確かめにくるのかどっちなのだろうと思ったりしましたが、それが、この一か月くらい前からパタッと姿を見せなくなったのです。

鳩の寿命がどれくらいなのか知りませんが、もう、一五年以上は生きていたはずですから、寿命を迎えたのかもしれません。
近くの山の、落ち葉に埋もれるよう死んでいったのでしょうか。
この手の中で見届けてやりたかったのにと思いましたが、鳩にとっては山で死ぬほうが幸せだったのかもしれません。

たくさんの鳩たちはどこで死んでいくのでしょう。
いちど、側溝の中で、蹲るようにして死んでいる鳩を見たことがありますが、ハトに限らず、鳥が地上で冷たいムクロになっているのを見るのは、どうしてこんなに悲しいのでしょうか。

ハトやスズメの群れを見ては、その一羽一羽がそれぞれの思いを持って生きているのだなあという感慨を覚えずにいられません。


わたしのハトはもう戻ってくることはないでしょうが、
信念を曲げることができずに、政界の外へ飛び出していった「掃きだめの鳩」は、またいつか戻ってこられるかもという希望があって、寂しさも中くらいなりというところでしょうか。









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by michi-no-yuri | 2012-11-23 11:51 | Comments(0)
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