「戦友別盃の歌」
戦争詩といえば、軍歌は別にして、この「戦友別盃の歌」がすぐ浮かびます。
森繁久弥さんの愛誦歌であり、その渾身の朗読は、魂を振起させ肌に粟を生じさせるものがありました。
言うなかれ、君よ、別れを
世の常を、また生き死にを
海原のはるけき果てに
今や、はた何をか言わん
熱き血を捧ぐものの
大いなる胸を叩けよ
満月を盃(はい)にくだきて
暫し、ただ酔いて勢(きほ)へよ
わが征くはバタビアの街
君はよくバンドンを突け
この夕べ相離(あいさかる)るとも
かがやかし南十字星を
いつの夜か、また共に見ん
言うなかれ、君よ、別れを
見よ、空と水うつところ
黙々と雲は行き雲はゆけるを
ジャワ上陸を前に、この歌は大木さんをして、「万感、その極に達し、口唇を突いて流れたもの」であり、
「今宵、浪静かにて、月明煌々たる南太平洋上で」兵隊たちは、大木さんの朗読に、「ある者は、相擁して泣きながら誦い、ある者は、船べりを叩いて朗誦した」ということです。
想像するに、大木さんが一節を朗読した後をなぞって兵隊たちは朗誦したのではないでしょうか。
(この場にどれだけの将兵がいて、そのなかで生還した者が何人いただろうかと思わずにはいられません。)
この歌のなかにもありますが、戦争は確かに、男子の熱き血を奮い立たせるものがあることは、わたしにも分かります。
しかし、これら戦地に赴いた兵士たちのほとんどは、飢えとマラリアで死んでいったのです。
わたしが、ドンパチだけで済む戦争ならいくらでもすればいいと、あえて言うのは、余りにも多くの若いいのちが、戦うこともなく無残に死んでいったことが哀切極まりないからです。
戦争末期、特攻出撃を前にした隊員たちは、よくこの歌を朗誦し、別れの盃を交わしたということです。
by michi-no-yuri
| 2012-08-14 11:49
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